付録 神名末尾のパターン
ウシ/クイ/タチ/チ/ヌ/ヌシ/ネ/ノ/ヒ/ミ/ミタマ/ミミ/ムチ/モチ/ワケなど。
神名を解釈する上では、神名末尾のパターン(神名において良くある末尾)を知っておく必要があるため、ここに挙げておく。
上代には上代特殊仮名遣という万葉仮名の使い分けがあり、一部の音については甲類・乙類の二種類があって表記に使われる万葉仮名が異なっているので、甲類・乙類の別も付記している。
後述しているが、神名末尾のパターンが複数重なる例も多い。また、これらの後にさらに「カミ(神)」や「ミコト(命、尊)」が付くことが多く、この「カミ」「ミコト」も神名末尾のパターンと言える。
なお、本書では神名末尾のパターンを便宜的に「〜の神(〜の男神、〜の女神)」と解釈しているが、多くのパターンの実際の意味は不明である。つまり個々のパターンに「神(男神、女神)」という意味があると主張しているわけではない。
古代の人名末尾に使われているものもあるため、尊称や称号とみなされることもあるが、これも実際にそうであるかは不明なため、本書では単にパターンとして扱っている。
神名末尾のパターン
・ウシ
・飽咋之宇斯能神(アキクイノウシ)
・斎之大人(イワイノウシ)
・大背飯三熊之大人(オオセヒミクマノウシ)
・和豆良比能宇斯能神(ワヅライノウシ)
・クイ(クヒ)(ヒは甲類)
・開囓神(アキクイ)
・活樴尊(イククイ)
・大山咋神(オオヤマクイ)
・角樴尊(ツノクイ)
・三島湟咋(ミシマノミゾクイ)
・タチ
・天忍立命(アマノオシタチ)
・天神立命(アマノカムタチ)
・天常立尊(アマノトコタチ)
・国狭立尊(クニノサタチ)
・国常立尊(クニノトコタチ)
・チ(連体助詞のノ、ツが前に付いて、ノチ、ツチとなる場合もある)
・軻遇突智(カグツチ)
・句句廼馳(ククノチ)
・櫛真智命(クシマチ)
・武甕槌神(タケミカヅチ)
・止与波知命(トヨハチ)
・ヌ
・天之冬衣神(アマノフユキヌ)
・淤美豆奴神(オミヅヌ)
・豊斟渟尊(トヨクムヌ)
・ヌシ(ノウシが【序文】で述べた上代の母音連続を避ける傾向により変化したもの)
・天御中主尊(アマノミナカヌシ)
・大国主神(オオクニヌシ)
・大物主神(オオモノヌシ)
・事代主神(コトシロヌシ)
・豊国主尊(トヨクニヌシ)
・ネ
・天児屋命(アマノコヤネ)
・天之葺根神(アマノフキネ)
・天麻比止都禰命(アマノマヒトツネ)
・吾屋惶根尊(アヤカシコネ)
・正哉吾勝勝速日天忍穂根尊(マサカアカツカチハヤヒアマノオシホネ)
・ノ(甲類)
・天椹野命(アマノムクノ)
・櫛御気野命(クシミケノ)
・豊組野尊(トヨクムノ)
・八束水臣津野命(ヤツカミヅオミツノ)
・ヒ(甲類)
・天穂日命(アマノホヒ)
・庭津日神(ニワツヒ)
・甕速日神(ミカハヤヒ)
・八十禍津日神(ヤソマガツヒ)
・和久産巣日神(ワクムスヒ)
・ミ(甲類)
・大陶祇(オオスエツミ)
・大山祇神(オオヤマツミ)
・熊野忍蹈命(クマノオシホミ)
・月読尊(ツクヨミ)
・御穂須々美命(ミホススミ)
・ミタマ(ミは甲類)
・天須婆留女命御玉(アマノスバルメノミコトノミタマ)
・倉稲魂命(ウカノミタマ)
・大国御魂神(オオクニミタマ)
・韴霊(フツノミタマ)
・山末御玉(ヤマズエノミタマ)
・ミミ(ミはいずれも甲類)
・陶津耳(スエツミミ)
・鳥耳神(トリミミ)
・布帝耳神(フテミミ)
・正哉吾勝勝速日天忍穂耳尊(マサカアカツカチハヤヒアマノオシホミミ)
・三島溝橛耳神(ミシマノミゾクイミミ)
・ムチ
・大己貴神(オオアナムチ)
・大日孁貴(オオヒルメノムチ)
・道主貴(ミチヌシノムチ)
・八島牟遅能神(ヤシマムヂ)
・モチ
・天之久比奢母智神(アマノクヒザモチ)
・天御食持命(アマノミケモチ)
・保食神(ウケモチ)
・大穴持命(オオアナモチ)
・国之久比奢母智神(クニノクヒザモチ)
・ワケ(ケは乙類)
・天石門別神(アマノイワトワケ)
・伊奢沙和気大神之命(イザサワケ)
・白雲別神(シラクモワケ)
・豊囓別尊(トヨカブワケ)
・正哉吾勝勝速日天忍穂別尊(マサカアカツカチハヤヒアマノオシホワケ)
男神の神名末尾のパターン
・オ(ヲ)(連体助詞のノが前に付いて、ノオとなる場合もある)
・香香背男(カカセオ)
・素戔嗚尊(スサノオ)
・手力雄神(タヂカラオ)
・火之夜芸速男神(ヒノヤギハヤオ)
・泉津事解之男(ヨモツコトサカノオ)
・コ(甲類)(ムスコとムスメ、ヲトコとヲトメのようにコは男を示す)
・出雲建子命(イズモタケコ)
・家都御子神(ケツミコ)
・蛭児(ヒルコ)
・ヒコ(ヒ、コは甲類)(神名末尾のヒ+神名末尾のコ)
・天稚彦(アメワカヒコ)
・伊勢津彦神(イセツヒコ)
・金山彦(カナヤマヒコ)
・猿田彦大神(サルタヒコ)
・級長津彦命(シナツヒコ)
なお、ヒコは神名先頭に付くこともある。
・神名先頭のヒコ
・彦稲勝命(ヒコイナカツ)
・彦狭知神(ヒコサチ)
・彦波瀲武鸕鷀草葺不合尊(ヒコナギサタケウガヤフキアエズ)
・彦火瓊瓊杵尊(ヒコホノニニギ)
・彦火火出見尊(ヒコホホデミ)
女神の神名末尾のパターン
・メ(甲類)(連体助詞のノが前に付いて、ノメとなる場合もある)
・天鈿女命(アマノウズメ)
・天探女(アマノサグメ)
・伊豆能売神(イヅノメ)
・罔象女(ミツハノメ)
・稚日女尊(ワカヒルメ)
・ベ(甲類)(メの交替形。【序文】で述べた子音のmとbが交替したもの)
・伊毘志都幣命(イヒシツベ)
・宇夜都弁命(ウヤツベ)
・大苫辺尊(オオトマベ)
・トメ(ト、メは甲類)
・天比理刀咩命(アマノヒリトメ)
・石凝姥命(イシコリドメ)
・八坂刀売神(ヤサカトメ)
・トベ(ト、ベは甲類)(トメの交替形。【序文】で述べた子音のmとbが交替したもの)
・石凝戸辺(イシコリトベ)
・級長戸辺命(シナトベ)
・ヒメ(ヒ、メは甲類)(神名末尾のヒ+神名末尾のメ)
・大宜都比売神(オオゲツヒメ)
・奇稲田姫(クシイナダヒメ)
・木花之開耶姫(コノハナノサクヤヒメ)
・湍津姫(タギツヒメ)
・玉櫛媛(タマクシヒメ)
対の男女神の神名末尾のパターン
・キ(甲類)とミ(甲類)(オキナとオミナのようにキ、ミで男女を示す)
・沫那芸神(アワナギ)、沫那美神(アワナミ)
・伊奘諾尊(イザナキ)、伊奘冉尊(イザナミ)
・頬那芸神(ツラナギ)、頬那美神(ツラナミ)
・神漏岐(カムロキ。男神の意)、神漏美(カムロミ。女神の意)
神名末尾のパターンが複数重なる例
・クイ+ウシ
・飽咋之宇斯能神(アキクイノウシ)
・クイ+ミミ
・三島溝橛耳神(ミシマノミゾクイミミ)
・チ+オ
・建御雷之男神(タケミカヅチノオ)
・天羽槌雄神(アマノハヅチオ)
・ヌシ+ヒコ
・甕主日子神(ミカヌシヒコ)
・ヌシ+ムチ
・道主貴(ミチヌシノムチ)
・ネ+ワケ
・天御虚空豊秋津根別(アマツミソラトヨアキヅネワケ)
・ヒ+ウシ
・斎之大人(イワイノウシ、歴史的仮名遣ではイハヒノウシ)
・ヒ+ヌシ
・斎主神(イワイヌシ、歴史的仮名遣ではイハヒヌシ)
・ヒ+ネ+ワケ
・建日向日豊久士比泥別(タケヒムカヒトヨクシヒネワケ)
・ヒ+ワケ
・大戸日別神(オオトヒワケ)
・ヒコ+ネ
・味耜高彦根神(アヂスキタカヒコネ)
・ミ+コ
・家都御子神(ケツミコ)
・ミミ+コ
・家都美御子大神(ケツミミコ)
・メ+ムチ
・大日孁貴(オオヒルメノムチ)
神名末尾のパターンの部分が異なっている別名の例
・阿遅須枳高日子命(アヂスキタカヒコ)と味耜高彦根神(アヂスキタカヒコネ)
・天忍骨命(アマノオシホネ)と天忍穂耳尊(アマノオシホミミ)
・天目一箇神(アマノマヒトツ)と天麻比止都禰命(アマノマヒトツネ)
・石凝戸辺(イシコリトベ)と石凝姥命(イシコリドメ)
・斎主神(イワイヌシ)と斎之大人(イワイノウシ)
・櫛真命(クシマ)と櫛真智命(クシマチ)
・家都御子神(ケツミコ)と家都美御子大神(ケツミミコ)
・武甕槌神(タケミカヅチ)と建御雷之男神(タケミカヅチノオ)
・豊斟渟尊(トヨクムヌ)と豊組野尊(トヨクムノ)
・正哉吾勝勝速日天忍穂根尊(マサカアカツカチハヤヒアマノオシホネ)と
正哉吾勝勝速日天忍穂耳尊(マサカアカツカチハヤヒアマノオシホミミ)と
正哉吾勝勝速日天忍穂別尊(マサカアカツカチハヤヒアマノオシホワケ)
・三島湟咋(ミシマノミゾクイ)と三島溝橛耳神(ミシマノミゾクイミミ)
複数の神名が連結されている例
複数の神名が連結されている場合は、神名末尾のパターンが神名の途中に出てくることもある。
・天照国照彦火明命(アマテルクニテルヒコホアカリ)
= アマテルクニテルヒコ + ホアカリ
・天饒石国饒石天津彦火瓊瓊杵尊(アメニギシクニニギシアマツヒコホノニニギ)
= アメニギシクニニギシアマツヒコ + ホノニニギ
・建日向日豊久士比泥別(タケヒムカヒトヨクシヒネワケ)
= タケヒムカヒ + トヨクシヒネワケ
・正哉吾勝勝速日天忍穂耳尊(マサカアカツカチハヤヒアマノオシホミミ)
= マサカアカツカチハヤヒ + アマノオシホミミ
・倭大物主櫛𤭖玉命(ヤマトノオオモノヌシクシミカタマ)
= ヤマトノオオモノヌシ + クシミカタマ