天椹野命
三十二人の防衛の一柱で天降る神。天牟久怒命と同神。椹は甕の変化で流星の意。
三十二人の防衛の一柱
天椹野命(アマノムクノ)は『先代旧事本紀』天神本紀において中跡直らの祖とされる神である。【速の章/饒速日命】で前述した三十二人の防衛の一柱で天降る神である。
天降る神であるという点から、流星に由来する神である可能性がある。
天椹野命は都波岐奈加等神社(三重県鈴鹿市一ノ宮町1181)に猿田彦大神、中筒之男命と共に祀られており、社伝によれば中跡直廣幡が初代祭主とされる。都波岐奈加等神社は椿大神社(三重県鈴鹿市山本町1871)と共に伊勢国一宮とされる。
「アマノクノ」ではない
天椹野命は一般的には「アマノクノ」と読まれている。例えば、大野七三校訂編集『先代旧事本紀 訓註』(意富之舎、一九八九年)や、安本美典監修・志村裕子訳『先代旧事本紀 現代語訳』(批評社、二〇一三年)も、読みはアマノクノとしている。
しかし「椹」の字に「ク」という読みは無い。『日本書紀』天武天皇十年四月の条に、次田倉人椹足という人名に対して「椹、此を武矩と云う」と分注が記されており、「椹」の読みは「ムク」と考えられる。「アマノクノ」は「アマノムクノ」の誤写と思われる。
天椹野命と天牟久怒命
また、『先代旧事本紀』国造本紀において、天降る神・天牟久怒命の孫である天日鷲命を神武天皇の時に伊勢国造とした旨が記されている。
前述の『先代旧事本紀 訓註』や『先代旧事本紀 現代語訳』では天牟久怒命をアマノムクヌと読んでいるが、「怒」は「ノ」とも読めるので、天椹野命と同じくアマノムクノとも読める。
天椹野命と天牟久怒命は同神の異表記とする説があり、共に伊勢国と関係深い天降る神であるため妥当な説と考えている。
各文献における名前
・『先代旧事本紀』……天椹野命、天牟久怒命
神名解釈
神名の天椹野命(天牟久怒命、アマノムクノ)を解釈すると、「ムク」は「ミカ」が【櫛の章/櫛真智命】で前述したようにウ段に変化したもので、本章冒頭で述べたように「流星」を「甕」に見立てたもの、末尾の「ノ」は神名末尾のパターンと考えられるので、「天の流星の神」と解釈できる。
まとめ
・天椹野命(アマノムクノ)……天降る神
・【速の章/饒速日命】で前述した三十二人の防衛の一柱で天降る神。
・天椹野命と天牟久怒命は、共に伊勢国と関係深い天降る神であるため同神の異表記。
・「椹」は「甕」のウ段への変化で流星の意。