流星と昴の日本神話
甕の章

櫛御気野命

素戔嗚(スサノオ)尊の別名。天降る速い星の神=流星の神。御気(ミケ)(ミカ)と同義で流星の意。

 

櫛御気野(クシミケノ)命(クシミケノ)は【櫛の章/櫛御気野命】で前述したように素戔嗚(スサノオ)尊の別名である。

素戔嗚(スサノオ)尊は【速の章/速素戔嗚尊】で前述したように、日の神、月の神と共に生まれた星の神、高天原(たかまのはら)から追放されて天降る神であり、天降る速い星の神=流星の神と考えられる。

 

神名解釈

櫛御気野(クシミケノ)命の「御気(ミ)」は「甕(ミ)」と同義と考えられる。「カ」と「ケ」は次に示す例のように、両方とも「(うつわ)」を意味する言葉だからである。

 

・「(うつわ)」を意味する「カ」の例

・たしら……水を入れる土器。大嘗祭などの儀式の際に用いる(『角川古語大辞典』角川書店、一九八二~一九九九年)。

・ひら(平瓮)……平たい皿型の土器。(せん)を盛るためのもの(『角川古語大辞典』)。

・み(甕・瓮)……大きな容器。かめ。水や酒を貯えたり、酒をかもしたりするのに用いた(『時代別国語大辞典 上代編』三省堂、一九六七年)。

・ゆ(由加)……「ゆ」は清浄性を、「か」は器をいう語。神への供物を入れる(うつわ)や、水などを入れる(かめ)の類(『角川古語大辞典』)。

 

・「(うつわ)」を意味する「ケ」の例

(笥)……容器。櫛笥(くしげ)(をけ)(さらけ)など、蓋の有無によらず容器一般をさす語であるが、単独で用いるときは食器をさすのが普通(『角川古語大辞典』)。

・かはら(土器)……「かはら」は(かはら)と同じく素焼きの陶器の意。「け」は容器の意(『角川古語大辞典』)。

・くし(櫛笥)……櫛などの化粧道具を入れる箱。「け」は入れ物の意。「たまくしげ」はその美称(『角川古語大辞典』)。

・さら(瓼)……「け」は容器の意。浅く平たい食器。さら(『角川古語大辞典』)。

・を(麻笥・桶)……()を入れる()の意で生じた語(『角川古語大辞典』)。

 

先代旧事本紀(せんだいくじほんぎ)』地祇本紀においては、素戔烏(スサノオ)尊の六世の孫が豊御気主(トヨミケヌシ)命(トヨミケヌシ)、その別名が建甕依(タケミカヨリ)命(タケミカヨリ)と記されている。名前中の「御気(ミケ)」が別名では「甕(ミカ)」となっており、これも「ミケ」と「ミカ」が同義として使われている例と考えられる。

つまり櫛御気野(クシミケノ)命(クシミケノ)を解釈すると、「クシ」は【櫛の章】で前述したように「流星」を「櫛」に見立てたもの、「ミケ」は「ミカ」と同義で、本章冒頭で述べたように「流星」を「(みか)」に見立てたもの、「ノ」は神名末尾のパターンと考えられるので、「流星の神」と解釈できる。

 

まとめ

・櫛御気野命(クシミケノ)……流星の神

【櫛の章/櫛御気野命】で前述したように素戔嗚(スサノオ)尊の別名。

【速の章/速素戔嗚尊】で前述した流星の神。

・「カ」「ケ」は共に「(うつわ)」の意。神名中の「ミケ」は「(ミカ)」と同義で流星の意。

 

関連ページ

【甕の章/天御食持命】……神名中の「ミケ」は「(ミカ)」と同義で流星の意。

【甕の章/補足 御食津神の神名の意味】……御食津神(みけつかみ)の名に付くカ、ケも「(うつわ)」の意。

【甕の章/補足 オカミとミツハの意味】……オカミのカも「(うつわ)」の意。

【石の章/磐余彦尊】……別名中の「ミケ」は「(ミカ)」と同義で流星の意。