流星と昴の日本神話
速の章

正哉吾勝勝速日天忍穂耳尊

流星の神・火瓊瓊杵(ホノニニギ)尊の父。「五百箇御統(いおつのみすまる)(すばる)」から生まれ天降る星の神=流星の神。

 

五百箇御統(いおつのみすまる)(すばる)」から生まれた星の神

正哉吾勝勝速日天忍穂耳(マサカアカツカチハヤヒアマノオシホミミ)尊(マサカアカツカチハヤヒアマノオシホミミ)は序文で述べた流星の神・火瓊瓊杵(ホノニニギ)尊の父であり、単に天忍穂耳(アマノオシホミミ)尊とも言う。天照(アマテラス)大神と素戔嗚(スサノオ)尊の誓約(うけい)の際に五百箇御統(いおつのみすまる)から生まれた男神たちの一柱である。

詳細は【速の章/補足 天照大神と素戔嗚尊の誓約の意味】で後述するが、この誓約(うけい)では素戔嗚(スサノオ)尊の剣と天照(アマテラス)大神が持つ五百箇御統(いおつのみすまる)から神が生み出される。この素戔嗚(スサノオ)尊の剣(蛇韓鋤(からすき)之剣とも言う)が「からすき星(オリオン座の三つ星の和名)」、五百箇御統(いおつのみすまる)は「(すばる)」と解釈する説があり、妥当な説と考えている。

天忍穂耳(アマノオシホミミ)尊は「五百箇御統(いおつのみすまる)(すばる)」から生まれた神ということになるので、序文で述べた星の群れから生まれた磐裂(イワサク)神、根裂(ネサク)神らと同様に星の神と考えられる。

 

天浮橋(あまのうきはし)まで天降る星の神

また、『古事記』や『日本書紀』神代下第九段一書第一(本文とは異なる伝えが一書(あるふみ)として複数併記されており、その一番目)によれば、天照(アマテラス)大神は最初、葦原中国(あしわらのなかつくに)を治めさせるために天忍穂耳(アマノオシホミミ)尊を葦原中国(あしわらのなかつくに)へ天降らせている。しかし天忍穂耳(アマノオシホミミ)尊が天浮橋(あまのうきはし)まで天降って葦原中国(あしわらのなかつくに)を見たところ不穏な状況であったため、還り昇って状況を報告したという。

その後、不穏な状況の葦原中国(あしわらのなかつくに)を平定するため武甕槌(タケミカヅチ)神らが遣わされる。武甕槌(タケミカヅチ)神らは出雲国(いずものくに)大己貴(オオアナムチ)神に国を譲らせ葦原中国(あしわらのなかつくに)を平定する。そして天忍穂耳(アマノオシホミミ)尊に代わって子の火瓊瓊杵(ホノニニギ)尊が葦原中国(あしわらのなかつくに)を治めるため天降ることとなる。

つまり天忍穂耳(アマノオシホミミ)尊は「五百箇御統(いおつのみすまる)(すばる)」から生まれた星の神であり、天浮橋(あまのうきはし)まで天降る神でもあるので、火瓊瓊杵(ホノニニギ)尊や素戔嗚(スサノオ)尊と同様に、天降る星の神=流星の神と考えられる。

 

天浮橋(あまのうきはし)の意味

なお、日本学者のカール・フローレンツ(Japanische Mythologie, 1901)やW・G・アストン(Shinto: the Way of the Gods, 1905)、民族学者の大林太良(おおばやしたりょう)(『銀河の道 虹の架け橋』小学館、一九九九年、229頁)などは、天浮橋(あまのうきはし)を虹と解釈しており、妥当な解釈と考えている。

虹と流星という組み合わせを疑問に思われるかもしれないが、明るい火球は昼に見えることもある。

 

流星は(すばる)から来る

では、なぜ流星の神(天忍穂耳(アマノオシホミミ)尊)が(すばる)五百箇御統(いおつのみすまる))から生まれるのか。

これはつまり古代には「流星は(すばる)から来る」という考え方があったことを示していると考えられる。(すばる)には星が密集しているので、流星が生まれる場所として考えられやすい場所と言える。

おうし座流星群も「流星は(すばる)から来る」と考えられた一因の可能性がある。おうし座流星群の放射点は(すばる)があるおうし座にあり、(すばる)の近辺から流星が来る様に見えるためである。

おうし座流星群は毎年九月頃から十二月頃にかけて出現する。極大時の一時間あたりの流星数は数個程度と少なめだが、火球が出現しやすく、期間が長いという特徴がある。

また、数世紀に渡る活動ピーク期が約二千五百〜三千年周期で来ると考えられており、次のピークは西暦三〇〇〇年頃と予測されている。つまり古代日本神話が形成された頃には、おうし座流星群の活動がピークを迎えていて、(すばる)の近辺から来る様に見える流星(火球)が現在よりも多く見られたと思われる。

 

各文献における名前

・『古事記』……正勝吾勝勝速日天之忍穂耳(マサカツアカツカチハヤヒアマノオシホミミ)命、正勝吾勝勝速日天忍穂耳(マサカツアカツカチハヤヒアマノオシホミミ)命、天忍穂耳(アマノオシホミミ)

・『日本書紀』……正哉吾勝勝速日天忍穂耳(マサカアカツカチハヤヒアマノオシホミミ)尊、正哉吾勝勝速日天忍骨(マサカアカツカチハヤヒアマノオシホネ)尊、勝速日天忍穂耳(カチハヤヒアマノオシホミミ)尊、正哉吾勝勝速日天忍穂根(マサカアカツカチハヤヒアマノオシホネ)尊、天忍穂耳(アマノオシホミミ)尊、天忍穂根(アマノオシホネ)尊、天忍骨(アマノオシホネ)命、勝速日(カチハヤヒ)命、天大耳(アマノオオミミ)

・『山城国風土記(やましろのくにふどき)逸文(いつぶん)……天忍穂長根(アマノオシホナガネ)

・『古語拾遺(こごしゅうい)』……吾勝(アカツ)

・『新撰姓氏録(しんせんしょうじろく)』……天押穂根(アマノオシホネ)命、正哉吾勝勝速日天押穂耳(マサカアカツカチハヤヒアマノオシホミミ)

・『先代旧事本紀(せんだいくじほんぎ)』……正哉吾勝勝速日天忍穂別(マサカアカツカチハヤヒアマノオシホワケ)尊、正哉吾勝勝速日天押穂耳(マサカアカツカチハヤヒアマノオシホミミ)尊、天忍穂耳(アマノオシホミミ)

 

神名解釈

天忍穂耳(アマノオシホミミ)尊や別名の天忍穂長根(アマノオシホナガネ)命の神名解釈については【火の章/天忍穂耳尊】で後述する。

 

まとめ

・正哉吾勝勝速日天忍穂耳尊(マサカアカツカチハヤヒアマノオシホミミ)……(すばる)から生まれた流星の神

序文で述べた流星の神・火瓊瓊杵(ホノニニギ)尊の父。

・「五百箇御統(いおつのみすまる)(すばる)」から生まれているので星の神。

天浮橋(あまのうきはし)まで天降る神でもあるので、天降る星の神=流星の神。

・流星の神が(すばる)から生まれるのは「流星は(すばる)から来る」という考え方を示している。

 

関連ページ

【速の章/補足 天照大神と素戔嗚尊の誓約の意味】……五百箇御統(いおつのみすまる)(すばる)

【玉の章/玉依姫命】……天忍穂耳(アマノオシホミミ)尊の妻。

【火の章/天忍穂耳尊】……天忍穂耳(アマノオシホミミ)尊や別名の天忍穂長根(アマノオシホナガネ)命の神名解釈。

【火の章/火之戸幡姫】……天忍穂耳(アマノオシホミミ)尊の妻についての様々な異なる神話、別名。

【火の章/火瓊瓊杵尊】……天忍穂耳(アマノオシホミミ)尊の子。

【火の章/火瓊瓊杵尊の兄や子】……天忍穂耳(アマノオシホミミ)尊の子や孫。

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