補足 五伴緒、諸部の神の意味
「天岩戸=昴」に集い、流星の神・火瓊瓊杵尊と共に流星となって天降る「昴と流星の神」。
五伴緒
天岩戸隠れの神話では、多くの神々が「天安之河原」(『古事記』)、「天安河辺」(『日本書紀』神代上第七段本文)に集ってこれに対処したが、この神話に登場する神々の多くは火瓊瓊杵尊と共に天降る神でもある。
例えば『古事記』において五伴緒と称される次の五柱の神々は、『古事記』『日本書紀』『古語拾遺』『先代旧事本紀』において天岩戸隠れの神話に登場し、かつ火瓊瓊杵尊と共に天降っている。
天児屋命
布刀玉命……【玉の章/太玉命】で後述。
天宇受売命
伊斯許理度売命……【石の章/石凝姥命】で後述。
玉祖命……【櫛の章/櫛明玉神】で後述。
『古事記』では次のように記されている。
(書き下し文)
是を以て、八百万の神、天の安の河原に神集ひ集ひて、高御産巣日神の子、思金神に思はしめて、常世の長鳴鳥を集め、鳴かしめて、天の安の河の河上の天の堅石を取り、天の金山の鉄を取りて、鍛人の天津麻羅を求めて、伊斯許理度売命に科せ、鏡を作らしめ、玉祖命に科せ、八尺の勾璁の五百津の御すまるの珠を作らしめて、天児屋命・布刀玉命を召して、天の香山の真男鹿の肩を内抜きに抜きて、(中略)天手力男神、戸の掖に隠り立ちて、天宇受売命、手次に天の香山の天の日影を繋けて、
(現代語訳)
それですべての神々が天の安の河原に集り、高御産巣日神の子の思金神に考えさせて、まず常世の長鳴鳥を集めて鳴かせ、天の安の河の川上にある堅い石を取り、天の金山の鉄を取って、鍛冶の天津麻羅を捜し出し、伊斯許理度売命に命じて鏡を作らせ、玉祖命に命じて八尺の勾玉を数多く長い緒に貫き通した玉飾りを作らせ、天児屋命と布刀玉命をお呼びになって、天の香山の雄鹿の肩の骨をそっくり抜き取ってきて、(中略)天手力男神が戸の脇に隠れ立ち、天宇受売命が天の香山の日陰蔓を襷にかけ、
《出典》山口佳紀・神野志隆光校注/訳『新編日本古典文学全集1 古事記』(小学館、一九九七年、六三~六五頁)
(書き下し文)
爾くして、天児屋命・布刀玉命・天宇受売命・伊斯許理度売命・玉祖命、幷せて五りの伴緒を支ち加へて天降しき。
(現代語訳)
そこで、天児屋命・布刀玉命・天宇受売命・伊斯許理度売命・玉祖命、合せて五人の部族の長の神を分けそえて天降した。
《出典》同書(一一五頁)
諸部の神
また『古語拾遺』において太玉命は、天岩戸隠れの神話において諸部の神と称される神々を率いて各種の捧げ物を作らせている。
(書き下し文)
爰に、思兼神、深く思ひ遠く慮りて、議りて曰はく、「太玉神をして諸部の神を率て、和幣を造らしむべし。仍りて、石凝姥神〔天糠戸命の子、作鏡が遠祖なり。〕をして天香山の銅を取りて、日の像の鏡を鋳しむ。長白羽神〔伊勢国の麻続が祖なり。今の俗に、衣服を白羽と謂ふは、此の縁なり。〕をして麻を種ゑて、青和幣〔古語に、爾伎弖といふ。〕と為さしむ。天日鷲神と津咋見神とをして穀の木を種殖ゑて、白和幣〔是は木綿なり。巳上の二つの物は、一夜に蕃茂れり。〕を作らしむ。天羽槌雄神〔倭文が遠祖なり。〕をして文布を織らしむ。天棚機姫神をして神衣を織らしむ。所謂和衣〔古語に、爾伎多倍といふ。〕なり。櫛明玉神をして八坂瓊五百箇御統の玉を作らしむ。手置帆負・彦狭知の二はしらの神をして天御量〔大小き斤の雑の器等の名なり。〕を以て大峡・小峡の材を伐りて、瑞殿〔古語に、美豆能美阿良可といふ。〕を造り、兼御笠及矛・盾を作らしむ。天目一箇神をして雑の刀・斧及鉄の鐸〔古語に、佐那伎といふ。〕を作らしむ。
《出典》斎部広成撰・西宮一民校注『古語拾遺』(岩波書店、一九八五年、一八~一九頁)
そして太玉命が天津彦尊(火瓊瓊杵尊の別名)と共に天降る際にも、これら諸部の神を率いるよう天照大神・高皇産霊尊から命じられている。
(書き下し文)
太玉命諸部の神を率て、其の職に供へ奉ること、天上の儀の如くせよ
《出典》斎部広成撰・西宮一民校注『古語拾遺』(岩波書店、一九八五年、二八頁)
つまり諸部の神と称される次の十柱の神々も、天岩戸隠れの神話に登場し、かつ火瓊瓊杵尊と共に天降っている。
石凝姥神……【石の章/石凝姥命】で後述。五伴緒の一柱でもある。
長白羽神……【石の章/長白羽神】で後述。
天日鷲神
津咋見神
天羽槌雄神……【石の章/建葉槌命】で後述。
天棚機姫神
櫛明玉神……【櫛の章/櫛明玉神】で後述。五伴緒の一柱でもある。
手置帆負……【火の章/手置帆負神】で後述。
彦狭知
天目一筒神……【櫛の章/天久斯麻比止都命】で後述。
五伴緒、諸部の神の意味
【速の章/補足 天岩戸、天安河の河上の意味】で前述したように天岩戸は昴と考えられる。
五伴緒や諸部の神は、天岩戸隠れの神話に登場するので、「天岩戸=昴」に集う神であり、【序文】で述べた流星の神・火瓊瓊杵尊と共に天降るので、同様に流星となって天降る神でもあると考えられる。
つまりは【速の章/速秋津日命】で前述した、昴に集い、流星となって天降る「昴と流星の神」であり、「昴の神=流星の神」という考え方があったことを裏付けるものと言える。
まとめ
五伴緒や諸部の神など、天岩戸隠れの神話に登場する神の多くは、火瓊瓊杵尊と共に天降る神でもある。
これらは「天岩戸=昴」に集う神であり、【序文】で述べた流星の神・火瓊瓊杵尊と共に天降るので、同様に流星となって天降る神でもある。
つまりは【速の章/速秋津日命】で前述した「昴と流星の神」。
関連ページ
【櫛の章/櫛石窓神】……天石門別神の別名。「昴と流星の神」。
【甕の章/撞賢木厳之御魂天疎向津媛命】……八咫鏡も天岩戸隠れの神話に登場する「昴と流星の神」。
【火の章/補足 天津麻羅、天津真浦の意味】……天岩戸隠れの神話に登場する「昴と流星の神」。