流星と昴の日本神話
速の章

補足 タギツヒメ、タゴリヒメの意味

宗像(むなかた)三女神の二柱。神名は天の川の急流を天降る流星の神の意。たき、たぎは上代では急流の意。

 

誓約(うけい)から生まれた流星の神

【速の章/補足 天照大神と素戔嗚尊の誓約の意味】において宗像(むなかた)三女神(田心姫(タゴリヒメ)湍津姫(タギツヒメ)市杵島姫(イチキシマヒメ))が「素戔嗚(スサノオ)尊の剣=からすき星」と「五百箇御統(いおつのみすまる)(すばる)」の交合から生まれて天降る流星の神と考えられることを前述した。

この宗像(むなかた)三女神のうちの二柱、湍津姫(タギツヒメ)田心姫(タゴリヒメ)の神名について解釈する。

 

たき、たぎの意味

『古語大辞典』(小学館、一九八三年)の「たき」の項には次のように記されている。

 

①早い瀬。急流。激流。(中略)②がけから流れ落ちる水。滝。(中略)万葉集では動詞「たぎつ」の語幹に「滝」をあてる例があることなどから、上代ではタギであったとする説もあるが、仮名書きの例では「多吉」「多伎」と清音を用いており、むしろ清濁両形があったと考えられる。(中略)この語は、上代には①の意にのみ用いられ、②の意には「たるみ(垂水)」が用いられた。

 

つまり「たき」「たぎ」は上代では急流を意味する。

 

タギツヒメ(タキツヒメ)の意味

湍津姫(タギツヒメ)(タギツヒメ)は別名、多岐都比売(タキツヒメ)命(タキツヒメ)とも言う。

前述したように「タキ」「タギ」は急流の意であり、また「湍」の字にも急流の意がある。「ツ」は古語で「〜の」を意味する格助詞、「ヒメ」は女神の神名末尾のパターンと考えられるので、湍津姫(タギツヒメ)多岐都比売(タキツヒメ)命は「急流の女神」と解釈できる。

 

タゴリヒメ(タキリビメ)の意味

田心姫(タゴリヒメ)(タゴリヒメ)は別名、多紀理毘売(タキリビメ)命(タキリビメ)とも言う。

それぞれ「タギリヒメ」「タキリビメ」が序文で述べた母音の連続を避ける傾向により変化したもの(古語の「天降(あも)り」と同様)と考えられるので「急流を降りる女神」と解釈できる。

 

天の川の急流を天降る流星の神

つまり湍津姫(タギツヒメ)多岐都比売(タキツヒメ)命)、田心姫(タゴリヒメ)多紀理毘売(タキリビメ)命)についても、【速の章/速川比古、速川比女】で前述した速川比古(ハヤカワヒコ)速川比女(ハヤカワヒメ)と同様に、天の川の急流を天降る流星の神を意味する神名と考えられる。

同様に天の川の急流を天降る流星の神を意味する神名と考えられるものとしては、次のものがある(神名中のセ、タキが急流の意)。

 

香香背男(カカセオ)……【甕の章/天津甕星】で後述。

多伎都比古(タキツヒコ)命……【甕の章/天御梶日女命】で後述。

大背飯三熊之大人(オオセヒミクマノウシ)……【甕の章/大背飯三熊之大人】で後述。

手置帆負(タキホヒ)神……【火の章/手置帆負神】で後述。

天背男(アマノセオ)命……【石の章/建葉槌命】で後述。

 

まとめ

宗像(むなかた)三女神は【速の章/補足 天照大神と素戔嗚尊の誓約の意味】で前述した流星の神。

・「たき」「たぎ」は上代では急流を意味するので、宗像(むなかた)三女神のタギツヒメ(タキツヒメ)は「急流の女神」、タゴリヒメ(タキリビメ)は「急流を降りる女神」。

・つまり天の川の急流を天降る流星の神の意。

 

関連ページ

【速の章/速川比古、速川比女】……天の川の急流を天降る流星の神。