手置帆負神
諸部の神の一柱で「昴と流星の神」。神名の手置帆負神は天の川の急流を天降る流星の神の意。
諸部の神の一柱
手置帆負神(タキホヒ)は『日本書紀』神代下第九段一書第二では、高皇産霊尊が紀国の忌部の遠祖である手置帆負神を作笠者として定めた、と記されている。
『古語拾遺』では讃岐国の忌部の祖とされており、諸部の神と称される神々の一柱である。
天岩戸隠れの神話に登場して彦狭知と共に瑞殿、御笠、矛、盾を作った神である。
また、序文で述べた流星の神・火瓊瓊杵尊と共に天降るので同じく流星の神と考えられる。
つまり手置帆負神は【速の章/補足 天岩戸、天安河の河上の意味】で前述した「天岩戸=昴」の神であり流星の神でもある「昴と流星の神」と考えられる。
各文献における名前
・『日本書紀』……手置帆負神
・『古語拾遺』……手置帆負命、手置帆負
・『先代旧事本紀』……手置帆負神、手置帆負、手置帆負命
「タオキホオイ」ではない
手置帆負神の神名は一般的には「タオキホオイ」と読まれているが、「タキホヒ」と読む説もある。「手置帆負」を万葉仮名と解釈して読めば「タキホヒ」である。
序文で述べたように、上代においては母音の連続を避ける傾向が強いので、「タオキホオイ」といった母音の連続が二箇所もある読み方は不自然である。
また、「タオキホオイ」に類似した神名の例は見当たらないが、「タキホヒ」であれば多岐都比売命(タキツヒメ)や多伎都比古命(タキツヒコ)、【火の章/天穂日命】で前述した天穂日命(アマノホヒ)といったように類似した神名の例がある。
このため「タキホヒ」と読むのが妥当と考えられる。
「手競ひ」ではない
坂本太郎・家永三郎・井上光貞・大野晋校注『日本古典文学大系67 日本書紀 上』(岩波書店、一九六七年)は手置帆負神の注釈で「タキホヒと訓むとすれば「手競ひ」の神という名義ではなかろうか」としている。
しかし、【速の章/補足 大日孁貴、月読尊、蛭児の意味】で前述したように、このような単独の名前にしか適用できないような解釈は、こじつけに陥りやすく信憑性に欠ける。
多岐都比売命、多伎都比古命、天穂日命といった手置帆負神に類似した神名においても同様の解釈が適用できるような神名解釈を本書では行う。
神名解釈
神名の手置帆負神(タキホヒ)を解釈すると、「タキ」は上代では急流の意、「ホ」は本章冒頭で述べたように「星」を「火」に見立てたもの、「ヒ」は神名末尾のパターンと考えられるので、「急流の星の神」と解釈できる。
【速の章/速川比古、速川比女】で前述した速川比古、速川比女と同様に、天の川の急流を天降る流星の神を意味する神名と考えられる。
同様に天の川の急流を天降る流星の神を意味する神名と考えられるものとしては、次のものがある(神名中のセ、タキ、タギが急流の意)。
・湍津姫(多岐都比売命)、田心姫(多紀理毘売命)……【速の章/補足 タギツヒメ、タゴリヒメの意味】で前述。
・香香背男……【甕の章/天津甕星】で前述。
・多伎都比古命……【甕の章/天御梶日女命】で前述。
・大背飯三熊之大人……【甕の章/大背飯三熊之大人】で前述。
・天背男命……【石の章/建葉槌命】で後述。
まとめ
・手置帆負神(タキホヒ)……昴と流星の神
・天岩戸隠れの神話に登場するので「天岩戸=昴」の神。
・序文で述べた流星の神・火瓊瓊杵尊と共に天降るので同じく流星の神。
・神名は「急流の星の神」つまり天の川の急流を天降る流星の神の意。
関連ページ
・【速の章/速川比古、速川比女】……天の川の急流を天降る流星の神。
・【速の章/補足 天岩戸、天安河の河上の意味】……天岩戸=昴。
・【火の章/天穂日命】……天穂日命は「天の星の神」の意。