天神玉命
三十二人の防衛、八代の天神の一柱で天降る神。別名の三統彦命は「昴の男神」の意。
三十二人の防衛の一柱
天神玉命(アマノカムタマ)は『先代旧事本紀』天神本紀において三島県主らの祖とされる神である。【速の章/饒速日命】で前述した三十二人の防衛の一柱で天降る神である。
天降る神であるという点から、流星に由来する神である可能性がある。
八代の天神の一柱
『先代旧事本紀』神代本紀(神代系紀)においては神皇産霊尊の子、葛野鴨県主らの祖とされている。【甕の章/天御食持命】で前述した八代の天神の一柱であり、天御食持命の弟である。
八代の天神は天降る神と記されているので、この点からも天神玉命が天降る神とわかる。
天神玉命と天神魂命
高皇産霊尊の命により饒速日命と共に天降ったとされる三十二人の防衛には、他に天神魂命という神もいて、その別名は三統彦命とされる。天神玉命と同じく葛野鴨県主らの祖とされているので同神の異表記と考えられる。
「天神魂命は神魂命」ではない
天神魂命を神魂命(神皇産霊尊)と解釈する説もある。
しかし三十二人の防衛である天神魂命は高皇産霊尊が命じて饒速日命に仕えさせた神であり、高皇産霊尊と同世代で同格とも言える神皇産霊尊と解釈するのは無理がある。また、多くの神々の祖とされる神皇産霊尊の説明として「葛野鴨県主らの祖」とだけ記すというのも考え難い。
【火の章/補足 天津真浦の意味】で後述するように『先代旧事本紀』天神本紀において饒速日命と共に天降ったとされる神々には、天津赤星と天都赤星、天津麻良・天麻良・天津真浦・天津麻占といったように同神の異表記と考えられる神が多く含まれている。
天神玉命と天神魂命についても、同神の異表記と考えるのが無理のない解釈と言える。
各文献における名前
・『先代旧事本紀』……天神玉命、天神魂命、三統彦命
神名解釈
神名の天神玉命(天神魂命、アマノカムタマ)を解釈すると、「タマ」は本章冒頭で述べたように「星」を「玉」に見立てたものと考えられるので、「天の神の星の神」と解釈できる。この「天の神の星」は、神が依り憑く流星とも、神が集う昴とも考えられる。
また、天神魂命の別名の三統彦命は一般的には「ミムネヒコ」と読まれている。例えば、大野七三校訂編集『先代旧事本紀 訓註』(意富之舎、一九八九年)や、安本美典監修・志村裕子訳『先代旧事本紀 現代語訳』(批評社、二〇一三年)も、読みはミムネヒコとしている。
しかし、【速の章/補足 天照大神と素戔嗚尊の誓約の意味】で前述した五百箇御統の「御統」と同様に「三統」も「ミスマル」と読んで「昴」(「すまる」とも言う)の意と解釈するのが妥当と考えられる。
そして「ヒコ」は男神の神名末尾のパターンと考えられるので、三統彦命(ミスマルヒコ)は「昴の男神」と解釈できる。
これにより、天神玉命=天神魂命=三統彦命もまた【速の章/速秋津日命】で前述した「昴と流星の神」と推定できる。
まとめ
・天神玉命(アマノカムタマ)……天降る神
・【速の章/饒速日命】で前述した三十二人の防衛、【甕の章/天御食持命】で前述した八代の天神の一柱で天降る神。
・天神魂命は同神の異表記。その別名の三統彦命は「ミスマルヒコ」つまり「昴の男神」と解釈できるので、【速の章/速秋津日命】で前述した「昴と流星の神」と推定。
関連ページ
・【速の章/補足 天照大神と素戔嗚尊の誓約の意味】……五百箇御統=昴。
・【火の章/補足 天津真浦の意味】……天津麻良・天麻良・天津真浦・天津麻占。
・【石の章/建葉槌命】……天背男命と天世乎命も同神の異表記。