流星と昴の日本神話
石の章

長白羽神

諸部(もろとものお)の神の一柱で(すばる)と流星の神。神名は「長く白い星の神」つまり「流星の神」の意。

 

諸部(もろとものお)の神の一柱

長白羽(ナガシラハ)神(ナガシラ)は『古語拾遺(こごしゅうい)』において伊勢国(いせのくに)麻続(おみ)麻続(おみ)氏)の祖とされている神であり、諸部(もろとものお)の神と称される神々の一柱である。

天岩戸隠れの神話に登場し、麻を植えて青和幣(あおにきて)(麻布)を作った神である。

また、序文で述べた流星の神・火瓊瓊杵(ホノニニギ)尊と共に天降るので同じく流星の神と考えられる。

つまり長白羽(ナガシラハ)神は【速の章/補足 天岩戸、天安河の河上の意味】で前述した「天岩戸=(すばる)」の神であり流星の神でもある「(すばる)と流星の神」と考えられる。

 

各文献における名前

・『古語拾遺(こごしゅうい)』……長白羽(ナガシラハ)

・『先代旧事本紀(せんだいくじほんぎ)』……長白羽(ナガシラハ)

 

「長く白い衣服の神」ではない

古語拾遺(こごしゅうい)』には衣服を白羽(しらは)と言うのは長白羽(ナガシラハ)神に由来すると書かれているが、神名の長白神の「羽」についても衣服または布帛(ふはく)(織物)の意と見て「長く白い衣服(または布帛(ふはく))の神」と解釈されることが多い。

幕末・明治の国学者・久保季茲(くぼすえしげ)は『古語拾遺講義(こごしゅういこうぎ)』(一八八三~一八八四年)の長白羽神の注釈において「白羽ノ白ハ色ヲイヒ羽ハ布帛(ハタモノ)ヲ云フ」「長ハ布帛ノ長キ由ナルヘシ」と述べている。

国語学者の西宮一民は、西宮一民校注『古語拾遺(こごしゅうい)』(岩波書店、一九八五年)の注釈において、「「羽」は動物の身を覆う物を言い、結局、衣服を言うので、「長白羽神」は「羽」を核として「長い、白い」の修飾語を冠し、神名としたもの」と述べている。

しかしこの解釈には問題がある。

古語拾遺(こごしゅうい)』において、長白羽(ナガシラハ)神は青和幣(あおにきて)(麻布。麻布の色は青みがかっている)を作り、天日鷲(アマノヒワシ)神と津咋見(ツクイミ)神は白和幣(しらにきて)(こうぞ)の木の皮の繊維である木綿(ゆう)で作った布。木綿(ゆう)の色は白い)を作る。

つまり、麻続(おみ)氏(麻続(おみ)麻績(おみ)と同じで、麻糸を作ることや麻糸を作る人のこと)の祖で、麻を植えて青和幣(あおにきて)(麻布)を作る長白羽(ナガシラハ)神の神名が、「長くい衣服(または布帛(ふはく))の神」となるのは不自然である。

衣服(または布帛(ふはく))の色を示しているのであれば、木綿(ゆう)の色を示す「白」ではなく、麻布の色を示す「青」が神名に付くはずである。

 

青幡佐久佐丁壮(アオハタサクサヒコ)

実際に麻布の色を示す「青」が神名に付く例もある。

出雲国風土記(いずものくにふどき)意宇郡(おうのこおり)大草郷(おおくさのさと)の条や大原郡(おおはらのこおり)高麻山(たかさやま)の条に記されている青幡佐久佐丁壮(アオハタサクサヒコ)命(青幡佐草日古(アオハタサクサヒコ)命)である。この神が山上に麻を()いたのが高麻山(たかさやま)という名の由来とされている。

国文学者の秋本吉郎(あきもときちろう)植垣節也(うえがきせつや)は、この神名を次のように解釈している。

 

秋本吉郎(あきもときちろう)校注『日本古典文学大系2 風土記』(岩波書店、一九五八年)の注釈

アヲハタは青色の幡で、青々と生い茂った草がなびく様にたとえて、神名サクサ(真草)の称辞としたもの。

植垣節也(うえがきせつや)校注/訳『新編日本古典文学全集5 風土記』(小学館、一九九七年)の注釈

「青幡」は青い旗。青い旗のなびくように青い木々の茂る意で、枕詞。『万葉』一四八に「青幡の木幡(こはた)の上を」。「佐久佐」は接頭語サ+草。「丁荘」は彦説、ヲトコ説などがある。

 

しかし、これらは「(ハタ)」という漢字表記にとらわれた解釈と言える。

青幡佐久佐丁壮(アオハタサクサヒコ)命(アオハタサクサヒコ)は高麻山(たかさやま)の山上に麻を()いた神であるため、「アオハタサクサヒコ」が序文で述べた上代の母音連続を避ける傾向により変化したものと考えられる。高麻山を「たかさやま」と言うのも同じ変化である。

そして「ヒコ」は男神の神名末尾のパターンと考えられるので、青幡佐久佐丁壮(アオハタサクサヒコ)命は「青い(はた)麻草(あさくさ)の男神」と解釈できる。

(はた)」は「布を織る機械。また、それで織った織物」(『古語大辞典』小学館、一九八三年)を意味するので、「青い(はた)」とは青和幣(あおにきて)と同様に「青い」麻布の意と考えられる。

 

神名解釈

長白羽(ナガシラハ)神の神名を「長く白い衣服(または布帛(ふはく))の神」と解釈すると、青幡佐久佐丁壮(アオハタサクサヒコ)命と同様に「青い」麻布との関係が深い神の名としては不自然である。

なぜ麻布の色である「青」ではなく「白」なのか、そしてなぜ「長い」と形容されるのかという説明が付かないため、「長く白い衣服(または布帛(ふはく))の神」という解釈には無理がある。

長白羽(ナガシラハ)神は前述したように(すばる)と流星の神と考えられるので、長白羽(ナガシラハ)神(ナガシラハ)とは、長白磐神(歴史的仮名遣(かなづかい)で、ナガシラハ)が上代の母音連続を避ける傾向により変化したもので、本章冒頭で述べたように「星」を「磐」に見立てたものと考えるのが妥当と思われる。

序文で述べた「火石(ほし)」が「星(ほし)」となる変化と同じく、後の母音イが脱落したものと考えられる。

つまり長白羽(ナガシラハ)神(ナガシラハ)は「長く白い星の神」と解釈できる。「長く白い星」とは、長い尾を引き、白く光る流星の意と考えられる。

【火の章/肥長比売】で前述した肥長比売(ヒナガヒメ)のヒナガや長穂宮(ながほのみや)のナガホ、【火の章/天忍穂耳尊】で前述した天忍穂長根(アマノオシホナガネ)命のホナガは「長い(ひ、ほ)」つまり尾を引く「長い星」である流星の意と考えられるが、これと同様の神名である。

 

まとめ

・長白羽神(ナガシラ)……(すばる)と流星の神

・天岩戸隠れの神話に登場するので「天岩戸=(すばる)」の神。

序文で述べた流星の神・火瓊瓊杵(ホノニニギ)尊と共に天降るので同じく流星の神。

・神名は「長く白い星の神」つまり「流星の神」の意。長く白い衣服の神ではない。