流星と昴の日本神話
石の章

補足 火瓊瓊杵尊の降臨地名の意味

久士(くし)(くし)=流星。高千穂(たかちほ)=高くにある数多くの星。日向(ひむか)=流星。竺紫(つくし)筑紫(つくし)=数多くの流星。

 

火瓊瓊杵(ホノニニギ)尊が天降った場所

序文で述べた流星の神・火瓊瓊杵(ホノニニギ)尊が天降った場所の地名は次のように記されている。

 

竺紫日向之高千穂之久士布流多気(つくしのひむかのたかちほのくしふるたけ)(『古事記』)

日向襲之高千穂峯(ひむかのそのたかちほのたけ)(『日本書紀』神代下第九段本文)

筑紫日向高千穂槵觸之峯(つくしのひむかのたかちほのくしふるのたけ)(同段一書第一)

日向槵日高千穂之峯(ひむかのくしひのたかちほのたけ)(同段一書第二)

日向襲之高千穂槵日二上峯(ひむかのそのたかちほのくしひのふたがみのたけ)(同段一書第四)

日向襲之高千穂添山峯(ひむかのそのたかちほのそほりのやまのたけ)(同段一書第六)

 

久士(くし)(くし)久士布流(くしふる)槵觸(くしふる)槵日(くしひ)の意味

これらの地名中の「久士(くし)」「(くし)」は【櫛の章】で前述したように「流星」を「櫛」に見立てたものと考えられる。「久士布流(くしふる)」「槵觸(くしふる)」は「流星が降る」と解釈できる。「槵日(くしひ)」は「ヒ」が神名末尾のパターンと考えられるので、「流星の神」と解釈できる。

 

高千穂(たかちほ)の意味

また「()」も【火の章】で前述したように「星」を「()」に見立てたものと考えられるので、「高千穂(たかちほ)」は「高くにある数多くの星」の意と考えられる。

 

日向(ひむか)の意味

日向(ひむか)」は、日の出る方角に向いた場所などと解釈されたりするが、これも同様に星関係の名前と見れば【速の章/補足 天照大神と素戔嗚尊の誓約の意味】で前述した「流星は地平線下の日に会いに行く星」という考え方に由来する名と考えられる。

つまり「日向(ひむか)」とは「日へ向かうもの」で「流星」の意と考えられる。

奈良県の大神神社(おおみわじんじゃ)大物主(オオモノヌシ)神を(まつ)るが、その摂社(せっしゃ)には大物主(オオモノヌシ)神の子・櫛御方(クシミカタ)命、孫・飯肩巣見(イヒカタスミ)命、曾孫・建甕槌(タケミカヅチ)命を(まつ)神坐日向神社(みわにますひむかいじんじゃ)や、日向御子(ヒムカイノミコ)神を(まつ)高宮神社(こうのみやじんじゃ)がある。この神坐日向神社(みわにますひむかいじんじゃ)日向御子(ヒムカイノミコ)神の「日向(ひむかい)」も同様に流星の意で、【櫛の章/倭大物主櫛みか玉命】で前述した流星の神・大物主(オオモノヌシ)神に由来する名と考えられる。

 

竺紫(つくし)筑紫(つくし)の意味

そして「竺紫(つくし)」「筑紫(つくし)」は「ちくし」とも読み、「たかほ」や「くしふる」と共に出てきていることから、「千櫛(ちくし)」つまり「数多くの流星」の意と考えられる。

筑後国風土記(ちくごのくにふどき)逸文(いつぶん)によれば、昔、筑前(ちくぜん)筑後(ちくご)の境に荒ぶる神がいて往来する人の半分が死んだので、人の(いのち)(つくし)の神と言った。その後、筑紫君(つくしのきみ)肥君(ひのきみ)らが占い、筑紫君(つくしのきみ)らの祖、甕依姫(ミカヨリヒメ)にこの神を(まつ)らせると、以降往来する人は殺されることがなくなったので筑紫神と言ったという。なお、この筑紫神は福岡県の筑紫神社(ちくしじんじゃ)(福岡県筑紫野市原田(ちくしのしはるだ)2550)に(まつ)られている。

この話自体は「つくし」という名から作られた良くある後付けの由来譚と考えられる。

しかし、筑紫神は千櫛神(ちくしのかみ)、つまり「数多くの流星の神」と解釈できる。

また、甕依姫(ミカヨリヒメ)(ミカヨリヒメ)も「ミカ」は【甕の章】で前述したように「流星」を「(みか)」に見立てたもの、「ヒメ」は女神の神名末尾のパターンと考えられるので、「流星に()()く女神」と解釈できる。

つまりこの由来譚は「筑紫」が流星の神に関連した名であることを裏付けるものと言える。

 

まとめ

火瓊瓊杵(ホノニニギ)尊の降臨地名中の「久士(くし)」「(くし)」は「流星」、「久士布流(くしふる)」「槵觸(くしふる)」は「流星が降る」、「槵日(くしひ)」は「流星の神」の意。「高千穂(たかちほ)」は「高くにある数多くの星」の意。

・「日向(ひむか)」は「流星」の意。「流星は地平線下の日に会いに行く星」という考え方に由来。

・「竺紫(つくし)」「筑紫(つくし)」は「千櫛(ちくし)」つまり「数多くの流星」の意。

・筑紫神は「数多くの流星の神」、甕依姫(ミカヨリヒメ)は「流星に()()く女神」の意。

 

関連ページ

【速の章/補足 天照大神と素戔嗚尊の誓約の意味】……流星は地平線下の日に会いに行く星。

【櫛の章/倭大物主櫛みか玉命】……大神神社(おおみわじんじゃ)の祭神で流星の神。

【石の章/補足 タケ、トヨの意味】……建日向日豊久士比泥別(タケヒムカヒトヨクシヒネワケ)の「日向(ひむか)」「久士(くし)」も流星の意。

【石の章/補足 フツの意味】……久士布流多気(くしふるたけ)槵觸之峯(くしふるのたけ)槵生峯(くしふのたけ)とも言う。