補足 タケ、トヨの意味
神名にタケ、トヨが付く流星の神は多く、流星の光の強さや数の多さを意味している可能性が高い。
神名に「タケ」「トヨ」が付く神も、流星の神や、流星に由来している可能性がある天降る神、その妻・子・孫といった場合が多い。
「タケ」は古語の「猛し」つまり「勢いがあるさま」(『角川古語大辞典』角川書店、一九八二~一九九九年)の意、「トヨ」は古語で「ゆたかであるさま」(『角川古語大辞典』)の意と解釈できるが、つまりこの場合は、流星の光の強さや数の多さを意味している可能性が高い。
神名にタケが付く神
・建速須佐之男命(タケハヤスサノオ)……流星の神
・素戔嗚尊の別名。武素戔嗚尊とも言う。
・【速の章/速素戔嗚尊】で前述した流星の神。
・五十猛神(イタケル)……流星の神
・別名、有功之神。【石の章/有功之神】で前述した流星の神。
・武三熊之大人(タケミクマノウシ)……流星の神
・別名、大背飯三熊之大人、建比良鳥命、武日照命、武夷鳥、天夷鳥。
・【甕の章/大背飯三熊之大人】で前述した流星の神。
・武甕槌神(タケミカヅチ)……流星の神
・建布都神とも言う。【甕の章/武甕槌神】で前述した昴から生まれた流星の神。
・建葉槌命(タケハヅチ)……昴と流星の神
・【石の章/建葉槌命】で前述した「昴と流星の神」。
・彦波瀲武鸕鷀草葺不合尊(ヒコナギサタケウガヤフキアエズ)……流星の神の孫
・序文で述べた流星の神・火瓊瓊杵尊の孫。
・出雲建子命(イズモタケコ)……流星の神
・天櫛玉命の別名。【櫛の章/天櫛玉命】で前述した流星の神。
・賀茂建角身命(カモタケツノミ)……天降る神
・【玉の章/玉依日子、玉依日売】で前述した天降る神。
・建玉依比古命(タケタマヨリヒコ)……天降る神の子
・建玉依比売命(タケタマヨリヒメ)……天降る神の子、流星の神の妻
・【玉の章/玉依日子、玉依日売】で前述した玉依日子、玉依日売の別名。
・天降る神・賀茂建角身命の子。
・建玉依比売命は【火の章/火雷】で前述した流星の神・火雷の妻。
・出雲建雄神(イズモタケオ)……流星の神
・布留川の川上に霊石として天降った草薙剣の神とされる。つまり流星の神。
・速甕之多気佐波夜遅奴美神(ハヤミカノタケサハヤヂヌミ)
・【速の章/その他の神】で前述したように流星に由来する神名の可能性が高い。
神名にトヨが付く神
・久志伊奈太美等与麻奴良比売命(クシイナダミトヨマヌラヒメ)……流星の神の妻
・【櫛の章/奇稲田姫】で前述した奇稲田姫の別名。
・【速の章/速素戔嗚尊】で前述した流星の神・素戔嗚尊の妻。
・万幡豊秋津媛命(ヨロズハタトヨアキヅヒメ)……流星の神の妻
・【玉の章/玉依姫命】で前述した玉依姫命や、【火の章/火之戸幡姫】で前述した火之戸幡姫と同神。
・【速の章/正哉吾勝勝速日天忍穂耳尊】で前述した流星の神・天忍穂耳尊の妻。
・【速の章/速秋津日命】で前述したように「秋津(蜻蛉の古名)」は流星の意。
・豊布都神(トヨフツ)……流星の神
・武甕槌神の別名。【甕の章/武甕槌神】で前述した昴から生まれた流星の神。
・止与波知命(トヨハチ)……昴と流星の神
・建葉槌命の別名。止与波豆知命とも言う。
・【石の章/建葉槌命】で前述した「昴と流星の神」。
・豊玉者(トヨタマノカミ)……昴と流星の神
・櫛明玉神の別名。【櫛の章/櫛明玉神】で前述した「昴と流星の神」。
・豊石窓神(トヨイワマド)……昴と流星の神
・櫛石窓神の別名。【櫛の章/櫛石窓神】で前述した「昴と流星の神」。
・豊受大神(トヨウケ)……流星の神
・【甕の章/補足 御食津神の神名の意味】で前述した御食津神。
・序文で述べた流星の神・火瓊瓊杵尊と共に天降るので、流星の神でもある。
・豊吾田津姫(トヨアタツヒメ)……流星の神の妻
・木花之開耶姫の別名。序文で述べた流星の神・火瓊瓊杵尊の妻。
・豊御富(トヨミホ)……流星の神
・【火の章/豊御富】で前述した流星の神。
・豊玉彦(トヨタマヒコ)
・豊玉姫(トヨタマヒメ)
・【玉の章/その他の神】で前述したように流星の神である可能性がある。
饒速日命(ニギハヤヒ)や火瓊瓊杵尊(ホノニニギ)の「ニギ」についても、【速の章/饒速日命】で前述したように「豊か」の意があるので「トヨ」と同義と考えられる。
建日向日豊久士比泥別、天御虚空豊秋津根別の意味
伊奘諾尊、伊奘冉尊からは日本の国土も生まれているが、『古事記』においては、この生まれた島や国に神名が付いている。
筑紫島(九州)の肥国の神名は、建日向日豊久士比泥別(タケヒムカヒトヨクシヒネワケ)と言う。【石の章/補足 火瓊瓊杵尊の降臨地名の意味】で前述したように「日向」「久士」は流星の意と考えられ、「ヒ」「ネ」「ワケ」は神名末尾のパターンであるため、「勢いがある流星の神、豊かな流星の神」と解釈できる。
そして本州である大倭豊秋津島の神名は、天御虚空豊秋津根別(アマツミソラトヨアキヅネワケ)と言う。【速の章/速秋津日命】で前述したように「秋津(蜻蛉の古名)」も流星の意と考えられるので、「天空の豊かな流星の神」と解釈できる。
まとめ
・神名に「タケ」「トヨ」が付く神も流星の神や、その妻・子・孫と考えられる場合が多く、この場合の「タケ」「トヨ」は流星の光の強さや数の多さを意味している可能性が高い。
・肥国の神名「建日向日豊久士比泥別」は「勢いがある流星の神、豊かな流星の神」、本州の神名「天御虚空豊秋津根別」は「天空の豊かな流星の神」と解釈できる。
関連ページ
・【速の章/饒速日命】……「ニギ」は「豊か」の意。
・【速の章/速秋津日命】……「秋津(蜻蛉の古名)」は流星の意。
・【石の章/補足 火瓊瓊杵尊の降臨地名の意味】……「日向」「久士」は流星の意。