武甕槌神
「五百箇磐石(湯津石村)=昴」から生まれ天降る流星の神。
天津甕星を誅伐しようとした神
武甕槌神(タケミカヅチ)は常陸国一宮とされる鹿島神宮(茨城県鹿嶋市宮中2306―1)などで祀られている神である。前項で述べたように天津甕星(天香香背男、香香背男)を誅伐しようとした神とされる。
「五百箇磐石(湯津石村)=昴」から生まれた流星の神
【速の章/熯速日神】で前述したように、武甕槌神もまた『古事記』において「五百箇磐石(湯津石村)=昴」から生まれている。
【速の章/正哉吾勝勝速日天忍穂耳尊】で前述したように「流星は昴から来る」という考え方があったと思われるので、武甕槌神も昴から生まれた流星の神と考えられる。
葦原中国の平定のため天降る神
また、武甕槌神は『古事記』においては天鳥船神と共に、『日本書紀』『古語拾遺』『先代旧事本紀』においては経津主神と共に葦原中国の平定のため天降る神でもある。この点からも天降る星の神=流星の神であることが裏付けられる。
「天岩戸=昴」から生まれた神
なお、武甕槌神には天石屋(天岩戸)に住む伊都之尾羽張神の子、あるいは天石窟(天岩戸)に住む稜威雄走神の曽孫とする神話もある。
これは武甕槌神が「天岩戸=昴」から生まれた神でもあることを意味するが、これについては【玉の章/補足 伊奘諾尊の剣の意味】で後述する。
各文献における名前
・『古事記』……建御雷之男神、建布都神、豊布都神、建御雷神
・『日本書紀』……武甕槌神、武甕雷神
・『常陸国風土記』……香島之大神、香島天之大神、天之大神
・『古語拾遺』……武甕槌神、鹿嶋神
・『新撰姓氏録』……武甕槌神
・『先代旧事本紀』……建甕槌之男神、建布都神、豊布都神、鹿嶋大神、石上布都大神、武甕雷男神、武雷神、武甕槌神、武甕槌、建布都大神、石上大神、武甕雷神
『先代旧事本紀』では、武甕槌神と武甕槌神の剣である韴霊(石上神宮の主祭神)を同神とみなしているようである。
神名解釈
神名の武甕槌神(タケミカヅチ)を解釈すると、「タケ」は古語の「猛し」つまり「勢いがあるさま」(『角川古語大辞典』角川書店、一九八二~一九九九年)の意、「ミカ」は本章冒頭で述べたように「流星」を「甕」に見立てたもの、「ツ」は古語で「〜の」を意味する格助詞、「チ」は神名末尾のパターンと考えられるので、「勢いがある流星の神」と解釈できる。
別名の建御雷之男神(タケミカヅチノオ)を解釈すると、「オ」は男神の神名末尾のパターンと考えられるので、「勢いがある流星の男神」と解釈できる。
タケミカヅチという神名には建御雷神という表記もあるため、タケ+ミ+イカヅチと区切って解釈されることがある。
国文学者の倉野憲司も、倉野憲司・武田祐吉校注『日本古典文学大系1 古事記 祝詞』(岩波書店、一九五八年)における建御雷之男神の注釈で「勇猛な雷の男神」と解釈している。
しかし武甕槌神は甕速日神(ミカハヤヒ)と共に生まれており、武甕槌神が使用した剣とされる韴霊(布都御魂)には甕布都(ミカフツ)という別名もある。タケミカヅチのミカもこれらと同義と解釈するのが妥当である。
武甕槌神に建御雷之男神、建御雷神、武甕雷神といった「雷」が付く別名があるのは、【櫛の章/倭大物主櫛みか玉命】で前述した大物主神と同様に、雷鳴のような衝撃音を発生させる火球の神であるからと考えられる。
本章冒頭で述べた『日本天文史料』に収集されている流星の古記録においても、火球の衝撃音については基本的に雷のような音と記されている。
また、火球と雷は、天から降り、尾を引く閃光を放ち、衝撃音を発し、時に地上に被害をもたらすという点で共通しているので、「火球と雷は同類」と考えられていた可能性もある。
別名の建布都神、豊布都神の神名解釈については【石の章/補足 フツの意味】で後述する。
まとめ
・武甕槌神(タケミカヅチ)……流星の神
・「五百箇磐石(湯津石村)=昴」から生まれている。
・「流星は昴から来る」ので、つまり流星の神。天降る神である点からも裏付けられる。
・雷が付く別名があるのは、雷鳴のような衝撃音を発生させる火球の神であるから。
関連ページ
・【速の章/熯速日神】……五百箇磐石(湯津石村)=昴。
・【櫛の章/倭大物主櫛みか玉命】……雷鳴のような衝撃音を発する火球の神。
・【櫛の章/鳥磐櫲樟船】……天鳥船神の別名。葦原中国の平定のため共に天降る神。
・【甕の章/天津甕星】……経津主神と武甕槌神が誅伐しようとした神。
・【甕の章/甕布都神】……武甕槌神が使用した剣。
・【玉の章/補足 伊奘諾尊の剣の意味】……天岩戸に住む伊都之尾羽張神の意味。
・【石の章/斎主神】……経津主神の別名。葦原中国の平定のため共に天降る神。
・【石の章/補足 タケ、トヨの意味】……武甕槌神のタケ、豊布都神のトヨの意味。
・【石の章/補足 フツの意味】……武甕槌神の別名、建布都神、豊布都神の神名解釈。