流星と昴の日本神話
石の章

斎主神

経津主(フツヌシ)神の別名。「五百箇磐石(いおついわむら)湯津石村(ゆついわむら))=(すばる)」から生まれ天降る流星の神。星宮神社の祭神。

 

天津甕星(アマツミカホシ)を誅伐しようとした神

斎主(イワイヌシ)神(イワイヌシ)は経津主(フツヌシ)神の別名であり、斎之大人(イワイノウシ)とも言う。下総国一宮(しもうさのくにいちのみや)とされる香取神宮(かとりじんぐう)(千葉県香取市香取(かとりしかとり)1697―1)などで(まつ)られている神である。

【甕の章/天津甕星】で前述したように天津甕星(アマツミカホシ)天香香背男(アマノカカセオ)香香背男(カカセオ))を誅伐しようとした神とされ、香取神宮(かとりじんぐう)ではこれにちなんだ星鎮祭(ほしづめさい)という神事が行われている。

 

五百箇磐石(いおついわむら)湯津石村(ゆついわむら))=(すばる)」から生まれた流星の神

経津主(フツヌシ)神も【速の章/熯速日神】で前述したように「五百箇磐石(いおついわむら)湯津石村(ゆついわむら))=(すばる)」から生まれている。

【速の章/正哉吾勝勝速日天忍穂耳尊】で前述したように「流星は(すばる)から来る」という考え方があったと思われるので、経津主(フツヌシ)神も(すばる)から生まれた流星の神と考えられる。

 

葦原中国(あしはらのなかつくに)の平定のため天降る神

また、経津主(フツヌシ)神は『日本書紀』『古語拾遺(こごしゅうい)』『先代旧事本紀(せんだいくじほんぎ)』において【甕の章/武甕槌神】で前述した武甕槌(タケミカヅチ)神と共に葦原中国(あしはらのなかつくに)の平定のため天降る神でもある。この点からも天降る星の神=流星の神であることが裏付けられる。

 

星宮神社の祭神

経津主(フツヌシ)神は栃木県の星宮神社四十社以上で(まつ)られており、【石の章/磐裂神】で前述したように祖父母ともされる磐裂(イワサク)神、根裂(ネサク)神と共に(まつ)られている場合が多い。前項で述べたように父母ともされる磐筒男(イワツツノオ)神、磐筒女(イワツツノメ)神と共に(まつ)られている場合もある。

また、他には次の星宮神社でも(まつ)られている。

 

・星宮神社(栃木県さくら市松島(まつしま)892)

・星宮神社(栃木県塩谷郡高根沢町桑窪(しおやぐんたかねざわまちくわくぼ)393)

・星宮神社(栃木県日光市小代(にっこうしこしろ)1071―1)

・星宮神社(栃木県日光市明神(にっこうしみょうじん)1617)

・星宮神社(栃木県芳賀郡市貝町大谷津(はがぐんいちかいまちおおやつ)243)

・星宮神社(栃木県芳賀郡市貝町塩田(はがぐんいちかいまちしおだ)925)

・星宮神社(栃木県芳賀郡市貝町竹内(はがぐんいちかいまちたけうち)433)

・星宮神社(栃木県芳賀郡市貝町見上(はがぐんいちかいまちみあげ)554)

 

各文献における名前

・『日本書紀』……経津主(フツヌシ)神、斎主(イワイヌシ)神、斎之大人(イワイノウシ)

・『常陸国風土記(ひたちのくにふどき)』……普都(フツ)大神

・『出雲国風土記(いずものくにふどき)』……布都怒志(フツヌシ)命、布都努志(フツヌシ)

・『肥前国風土記(ひぜんのくにふどき)』……物部経津主(モノノベノフツヌシ)之神

・『古語拾遺(こごしゅうい)』……経津主(フツヌシ)神、香取(カトリ)

・『新撰姓氏録(しんせんしょうじろく)』……布都努志(フツヌシ)乃命

・『先代旧事本紀(せんだいくじほんぎ)』……経津主(フツヌシ)神、香取(カトリ)大神、斎主(イワイヌシ)神、斎之大人(イワイノウシ)経津主(フツヌシ)

・「出雲国造神賀詞(いずものくにのみやつこのかむよごと)」……布都怒志(フツヌシ)

 

神名解釈

斎主(さいしゅ)」というのは祭祀を主宰する神職のことなので、斎主(イワイヌシ)神も同様に祭祀を行う神などと解釈されることが多い。しかしこれは神名の漢字表記にとらわれた解釈と言える。

経津主(フツヌシ)神は磐裂(イワサク)神、磐筒男(イワツツノオ)神、磐筒女(イワツツノメ)神と同様に五百箇磐石(いおついわむら)から生まれているので、その別名である「イワイヌシ」の「イワ」も「磐」と解釈するのが妥当と思われる。

斎主(イワイヌシ)神は旧仮名遣いでは「イハヒヌシ」で、『続日本後紀(しょくにほんこうき)』などでは伊波比主(イハヒヌシ)命と記されている。「ヒ」「ヌシ」はいずれも神名末尾のパターンであり、神名末尾のパターンが複数重なる例も多い。

つまり【速の章/補足 大日孁貴、月読尊、蛭児の意味】で前述したように、漢字表記にとらわれず、神名の読みと神名末尾のパターンに着目し、本章冒頭で述べたように「星」を「磐」に見立てていると考えれば、斎主(イワイヌシ)神(イワイヌシ、イハヒヌシ)は「星の神」と解釈できる。

経津主(フツヌシ)神の神名解釈については【石の章/補足 フツの意味】で後述する。

 

まとめ

・斎主神(イワイヌシ)……(すばる)から生まれた流星の神

経津主(フツヌシ)神の別名。斎主(イワイヌシ)神という神名は「星の神」と解釈できる。

・「五百箇磐石(いおついわむら)湯津石村(ゆついわむら))=(すばる)」から生まれている。

・「流星は(すばる)から来る」ので、つまり流星の神。

葦原中国(あしはらのなかつくに)の平定のため天降る神であり、この点からも裏付けられる。

・星宮神社四十社以上で(まつ)られている。

 

関連ページ

【速の章/熯速日神】……五百箇磐石(いおついわむら)湯津石村(ゆついわむら))=(すばる)

【甕の章/天津甕星】……経津主(フツヌシ)神と武甕槌(タケミカヅチ)神が誅伐しようとした神。

【甕の章/武甕槌神】……葦原中国(あしはらのなかつくに)の平定のため共に天降る神。

【石の章/磐裂神】……経津主(フツヌシ)神の祖父ともされる。

【石の章/磐筒男神、磐筒女神】……経津主(フツヌシ)神の父母ともされる。

【石の章/補足 フツの意味】……経津主(フツヌシ)神の神名解釈。