流星と昴の日本神話
櫛の章

まとめ

 

本章で示してきたように神名に「クシ」や、そのウ段への変化である「クス」が付く神は、次の図のような構成となっている。流星の神や、流星に由来している可能性がある天降る神、その近親が多くを占めている(15例中14例、約93%)。

残る1例は(すばる)の神・櫛真智(クシマチ)命であり、この場合も神名中の「クシ」は「流星」の意、「クシマ」は流星が出てくる天の隙間である天岩戸の意と考えられる。

このように多くの例があることから単なる偶然とは考えにくい。つまりこれらの神の神名に付く「クシ」は、本章冒頭で述べたように「流星(火球)」を天から降る竪櫛(たてぐし)に見立てたものと考えられる。

 

神名に「クシ」またはその変化が付く神
神名に「クシ」またはその変化が付く神

櫛御気野命クシミケノ)……流星の神

素戔嗚(スサノオ)尊の別名。【速の章/速素戔嗚尊】で前述した流星の神。

 

奇稲田姫クシイナダヒメ)……流星の神の妻

【速の章/速素戔嗚尊】で前述した流星の神・素戔嗚(スサノオ)尊(櫛御気野(クシミケノ)命)の妻。

 

倭大物主櫛みか玉命(ヤマトノオオモノヌシクシミカタマ)……流星の神

大物主(オオモノヌシ)神の別名。

・海を照らしながら来る姿、目を輝かせる蛇の姿を持ち、雷鳴を発する。これは海上を飛来する火球、光り輝き尾を引く火球、火球の衝撃音を意味し、つまり流星(火球)の神。

 

天玉櫛彦命(アマノタマクシヒコ)……天降る神

【速の章/饒速日命】で前述した三十二人の防衛(ふせぎまもり)の一柱で天降る神。

事代主(コトシロヌシ)神と同神。事代主(コトシロヌシ)神はタマクシヒメの夫でタマクシヒコを含む別名を持つ。

事代主(コトシロヌシ)神は『出雲国風土記(いずものくにふどき)』に登場せず「天」が付く別名や天神に分類されている後裔氏族が多い。つまり元々は天降る神だが出雲の神、地祇(ちぎ)に神話が改変されたと推定できる。

 

玉櫛媛(タマクシヒメ)……天降る神の妻

・『日本書紀』では【櫛の章/天玉櫛彦命】で前述した天降る神・事代主(コトシロヌシ)神の妻。

・『古事記』では勢夜陀多良比売(セヤダタラヒメ)と言い、【櫛の章/倭大物主櫛みか玉命】で前述した流星の神・大物主(オオモノヌシ)神の妻。

 

櫛八玉神クシヤタマ)……(すばる)と流星の神の孫

【速の章/速秋津日命】で前述した「(すばる)と流星の神」である水戸神(ミナトノカミ)の孫。

 

櫛明玉神クシアカルタマ)……(すばる)と流星の神

・天岩戸隠れの神話に登場するので「天岩戸=(すばる)」の神。

序文で述べた流星の神・火瓊瓊杵(ホノニニギ)尊と共に天降るので同じく流星の神。

櫛明玉(クシアカルタマ)神が作った玉(八尺勾璁之五百津之御須麻流之珠(やさかのまがたまのいおつのみすまるのたま)八坂瓊之曲玉(やさかにのまがたま))も【速の章/補足 天照大神と素戔嗚尊の誓約の意味】で前述したように(すばる)を意味する。

 

天槵津大来目(アマノクシツオオクメ)……流星の神

序文で述べた流星の神・火瓊瓊杵(ホノニニギ)尊と共に天降るので同じく流星の神。

 

櫛石窓神クシイワマド)……(すばる)と流星の神

・別名の天石門別(アマノイワトワケ)神は「天岩戸の神」と解釈できるので「天岩戸=(すばる)」の神。

序文で述べた流星の神・火瓊瓊杵(ホノニニギ)尊と共に天降るので同じく流星の神。

 

櫛真智命クシマチ)……(すばる)の神

・神名・別名の櫛真智(クシマチ)命、櫛真(クシマ)命は櫛間の神、大麻等乃知(オオマドノチ)神、大麻止乃豆(オオマドノツ)は大窓の神の意。

・櫛間は流星が出てくる天の隙間、大窓は天の大窓で、共に天岩戸の意。

・つまり【櫛の章/櫛石窓神】で前述した櫛石窓(クシイワマド)神と同様に「天岩戸=(すばる)」の神。

天香山(あまのかぐやま)(まつ)られているのは天香山(あまのかぐやま)が「天岩戸近辺から降ってきた山」であるため。

 

天久斯麻比止都命(アマノクシマヒトツ)……(すばる)と流星の神

天目一箇(アマノマヒトツ)神の別名。天岩戸隠れの神話に登場するので「天岩戸=(すばる)」の神。

序文で述べた流星の神・火瓊瓊杵(ホノニニギ)尊と共に天降るので同じく流星の神。

天目一箇(アマノマヒトツ)神は「日食・月食の神」、天久斯麻比止都(アマノクシマヒトツ)命は「流星と日食・月食の神」の意。

・日と月を天の両目に見立てた神名で、日食・月食・流星を発生させる天岩戸の神の意。

 

櫛玉饒速日命クシタマニギハヤヒ)……流星の神

饒速日(ニギハヤヒ)命の別名。【速の章/饒速日命】で前述した流星の神。

 

天櫛玉命(アマノクシタマ)……流星の神

・別名、出雲建子(イズモタケコ)命、伊勢都彦(イセツヒコ)命(伊勢津彦(イセツヒコ)神)。

【速の章/饒速日命】で前述した三十二人の防衛(ふせぎまもり)の一柱で天降る神。

・夜中に大風を起こし、日の様に輝き、波に乗り東へ去った。これは強風で波が高い夜に出現し、海上を東へ去った火球の描写。これにより流星の神であることが裏付けられる。

 

熊野櫲樟日命(クマノクスヒ)……流星の神

・「五百箇御統(いおつのみすまる)(すばる)」から生まれている。

・「流星は(すばる)から来る」ので、つまり流星の神。

・「櫲樟(クス)」は「(クシ)」のウ段への変化で流星の意。

 

鳥磐櫲樟船(トリノイワクスフネ)……流星の神

【甕の章/武甕槌神】で後述する流星の神・武甕槌(タケミカヅチ)神と共に天降るので同じく流星の神。

【速の章/饒速日命】で前述した天磐船(あまのいわふね)と同様に流星(隕石)を「天降る神が()()く星」と考え、それを「天降る神が乗る磐の船」に見立てた神名。

・「櫲樟(クス)」は「(クシ)」のウ段への変化で流星の意。