流星と昴の日本神話
火の章

まとめ

 

本章で示してきたように神名に「乙類のヒ」「ホ」が付く神は、次の図のような構成となっている。流星の神や、流星に由来している可能性がある天降る神、その近親が多くを占めている(16例中15例、約94%)。

このように多くの例があることから単なる偶然とは考えにくい。つまりこれら流星の神や天降る神、その近親の神名に付く「乙類のヒ」「ホ」は、本章冒頭で述べたように「星」(語源は火石(ほいし))を「火」に見立てたものと考えられる。

 

神名に「乙類のヒ」「ホ」が付く神
神名に「乙類のヒ」「ホ」が付く神

熯速日神ノハヤヒ)……流星の神

【速の章/熯速日神】で前述した流星の神。

 

肥長比売ナガヒメ)……流星の神

【櫛の章/倭大物主櫛みか玉命】で前述した流星の神・大物主(オオモノヌシ)神と同種の神話を持ち、海を照らし蛇の姿を持つ点も同じ。つまり大物主(オオモノヌシ)神と同じく光り輝き尾を引く流星の神。

肥長比売(ヒナガヒメ)の「ヒナガ」や長穂宮(ながほのみや)の「ナガホ」は「長い(ひ、ほ)」である流星の意。

・星宮神社、星神社の祭神である富能加比売(ホノカヒメ)命と同神とみなされていると思われる。

 

天忍穂耳尊(アマノオシミミ)……流星の神

【速の章/正哉吾勝勝速日天忍穂耳尊】で前述した流星の神。

 

火之戸幡姫ノトハタヒメ)……流星の神の妻

火之戸幡姫(ホノトハタヒメ)とその児の千千姫(チヂヒメ)命は、二つの神名が連結されている神名を親子の神名と誤解して親子の神に改変されたもの。

・つまり元は同じ神で高皇産霊(タカミムスヒ)尊の娘、かつ【速の章/正哉吾勝勝速日天忍穂耳尊】で前述した流星の神・天忍穂耳(アマノオシホミミ)尊の妻。

 

天穂日命(アマノヒ)……流星の神

・「五百箇御統(いおつのみすまる)(すばる)」から生まれている。

・「流星は(すばる)から来る」ので、つまり流星の神。天降る神である点からも裏付けられる。

 

熊野忍蹈命(クマノオシミ)……流星の神

熊野櫲樟日(クマノクスヒ)命の別名。【櫛の章/熊野櫲樟日命】で前述した流星の神。

 

三穂津姫(ミツヒメ)……流星の神の妻、天降る神

【櫛の章/倭大物主櫛みか玉命】で前述した流星の神・大物主(オオモノヌシ)神の妻。

・天にいる高皇産霊(タカミムスヒ)尊の娘であり、大物主(オオモノヌシ)神の妻となって天降った神。

 

手置帆負神(タキヒ)……(すばる)と流星の神

・天岩戸隠れの神話に登場するので「天岩戸=(すばる)」の神。

序文で述べた流星の神・火瓊瓊杵(ホノニニギ)尊と共に天降るので同じく流星の神。

・神名は「急流の星の神」つまり天の川の急流を天降る流星の神の意。

 

火瓊瓊杵尊ノニニギ)……流星の神

序文で述べた流星の神。星宮神社で(まつ)られている。

 

火瓊瓊杵尊の兄や子……流星の神の子

・全員名前に「()」が付く。

序文【火の章/火瓊瓊杵尊】で前述した流星の神・火瓊瓊杵(ホノニニギ)尊の子や、【速の章/正哉吾勝勝速日天忍穂耳尊】で前述した流星の神・天忍穂耳(アマノオシホミミ)尊の子。

 

胆杵磯丹杵穂命(イキシニギ)……流星の神

饒速日(ニギハヤヒ)命の別名。【速の章/饒速日命】で前述した流星の神。

 

穂屋姫命ヤヒメ)……流星の神の妹・妻・子

【櫛の章/櫛真智命】で前述した流星の神・天香山(アマノカグヤマ)天香語山(アマノカゴヤマ)命)の異母妹で妻。

【速の章/饒速日命】で前述した流星の神・饒速日(ニギハヤヒ)命の子。

 

伊岐志邇保命(イキシニ)……天降る神

【速の章/饒速日命】で前述した三十二人の防衛(ふせぎまもり)の一柱で天降る神。

 

豊御富(トヨミ)……流星の神

・光って尾がある神・井光(イヒカ)の別名。つまり光り輝き尾を引く流星の神。

豊御富(トヨミホ)のミホは「水火(ミホ)」つまり「水のような星(水のように流れる星)」、別名の水光姫(ミヒカヒメ)水光(ミヒカ)神の「水光(ミヒカ)」は「水のような光(水のように流れる光)」で共に流星の意。

井光(イヒカ)が出てくる井は、流星を生み出す天の井戸である天真名井(あまのまない)

 

火雷ノイカヅチ)……流星の神

【櫛の章/倭大物主櫛みか玉命】で前述した流星の神・大物主(オオモノヌシ)神と同じく丹塗矢(にぬりや)神話を持つ雷神。つまり大物主(オオモノヌシ)神と同じく雷鳴のような衝撃音を発する火球の神。

 

その他の神

・火之夜芸速男神(ノヤギハヤオ)

軻遇突智(カグツチ)の別名。記紀に「火神」と明記されており、流星の神とは考えていない。