流星と昴の日本神話
甕の章

まとめ

 

本章で示してきたように神名に「ミカ」や、そのウ段への変化である「ミク」「ムカ」「ムク」、同義の「ミケ」が付く神は、次の図のような構成となっている。流星の神や、流星に由来している可能性がある天降る神、その近親が多くを占めている(16例中13例、約81%)。

このように多くの例があることから単なる偶然とは考えにくい。つまりこれら流星の神や天降る神、その近親の神名に付く「ミカ」は、本章冒頭で述べたように「流星(火球)」を大きなかめである「(みか)」に見立てたものと考えられる。

 

神名に「ミカ」またはその変化が付く神
神名に「ミカ」またはその変化が付く神

甕速日神ミカハヤヒ)……流星の神

【速の章/甕速日神】で前述した流星の神。

 

倭大物主櫛みか玉命(ヤマトノオオモノヌシクシミカタマ)……流星の神

【櫛の章/倭大物主櫛みか玉命】で前述した流星の神。

 

天津甕星(アマツミカホシ)……流星の神

序文で述べた星の神・香香背男(カカセオ)の別名。星宮神社、星神社などで(まつ)られている。

・星の神が地上にいるので天降った星の神=流星の神。

香香背男(カカセオ)が変じた石が砕けて各地に飛来する伝承からも裏付けられる。

香香背男(カカセオ)は「輝きの()(急流)の男神」つまり天の川の急流を天降る流星の神の意。

 

武甕槌神(タケミカヅチ)……流星の神

・「五百箇磐石(いおついわむら)湯津石村(ゆついわむら))=(すばる)」から生まれている。

・「流星は(すばる)から来る」ので、つまり流星の神。天降る神である点からも裏付けられる。

・雷が付く別名があるのは、雷鳴のような衝撃音を発生させる火球の神であるから。

 

甕布都神ミカフツ)……流星の神

韴霊(フツノミタマ)布都御魂(フツノミタマ))の別名。

【甕の章/武甕槌神】で前述した流星の神・武甕槌(タケミカヅチ)神が自身の代わりとして天から降した剣。つまり流星を天から地上へ落ちる剣に見立てたもの。

布留山(ふるやま)石上神宮(いそのかみじんぐう)の主祭神。「降る石=流星」の神であることを裏付ける。

 

天御梶日女命(アマノミカヂヒメ)……流星の神の妻

味耜高彦根(アヂスキタカヒコネ)神の妻。味耜高彦根(アヂスキタカヒコネ)神は二つの丘、二つの谷の間に照りかがやく神。

味耜高彦根(アヂスキタカヒコネ)神のことを妹の下照媛(シタテルヒメ)が詠んだ歌では、天の弟棚機(おとたなばた)が首にかけている玉の御統(みすまる)の穴玉と詠まれている。これは天照(アマテラス)大神が持つ「五百箇御統(いおつのみすまる)(すばる)」から来る火球の意。

・つまり味耜高彦根(アヂスキタカヒコネ)神は流星(火球)の神。

 

御門之神ミカドノカミ)……(すばる)と流星の神

天石門別(アマノイワトワケ)神の別名。【櫛の章/櫛石窓神】で前述した(すばる)と流星の神。

・「御門(ミカド)」は「甕門(ミカド)」、つまり「(ミカ)=流星」が出てくる門である「天岩戸=(すばる)」の意。

 

三炊屋媛ミカシキヤヒメ)……流星の神の妻

【速の章/饒速日命】で前述した流星の神・饒速日(ニギハヤヒ)命の妻。

・別名、鳥見屋媛(トミヤヒメ)鳥見(とみ)磯城(しき)にある地名で、「三炊(ミカシキ)」は「(ミカ)」と「磯城(しき)」の意。

・皇族の富登多多良伊須須岐比売(ほとたたらいすすきひめ)命、大日本彦耜友(おおやまとひこすきとも)天皇、豊鍬入姫(とよすきいりひめ)命、五十瓊敷入彦(いにしきいりひこ)命、渟中倉太珠敷(ぬなくらふとたましき)天皇、豊御食炊屋姫(とよみけかしきやひめ)天皇も同様に、名前中のシキ・スキは磯城(しき)に由来。

 

大背飯三熊之大人(オオセヒミクマノウシ)……(すばる)と流星の神

【速の章/補足 天照大神と素戔嗚尊の誓約の意味】で前述した流星の神・天穂日(アマノホヒ)命の子であり、天穂日(アマノホヒ)命に続いて天降るので同じく流星の神。

・「大背飯(オオセヒ)」は「大きな()(急流)の神」つまり天の川の急流を天降る流星の神の意。

・「三熊(ミクマ)」は「甕間(ミカマ)」、つまり流星が出てくる天の隙間である「天岩戸=(すばる)」の意。

 

撞賢木厳之御魂天疎向津媛命(ツキサカキイツノミタマアマサカルムカツヒメ)……(すばる)と流星の神

天照(アマテラス)大神の別名。「榊に()く威厳に満ちた神、天を離れる流星の女神」の意。

・「(ムカ)」は「(ミカ)」のウ段への変化で流星の意。

天照(アマテラス)大神と同一視されている八咫鏡(やたのかがみ)は、天岩戸隠れの神話に登場するので「天岩戸=(すばる)」の神であり、序文で述べた流星の神・火瓊瓊杵(ホノニニギ)尊と共に天降るので同じく流星の神。

 

天椹野命(アマノムクノ)……天降る神

【速の章/饒速日命】で前述した三十二人の防衛(ふせぎまもり)の一柱で天降る神。

天椹野(アマノムクノ)命と天牟久怒(アマノムクノ)命は、共に伊勢国(いせのくに)と関係深い天降る神であるため同神の異表記。

・「(ムク)」は「(ミカ)」のウ段への変化で流星の意。

 

櫛御気野命(クシミケノ)……流星の神

【櫛の章/櫛御気野命】で前述したように素戔嗚(スサノオ)尊の別名。

【速の章/速素戔嗚尊】で前述した流星の神。

・「カ」「ケ」は共に「(うつわ)」の意。神名中の「ミケ」は「(ミカ)」と同義で流星の意。

 

天御食持命(アマノミケモチ)……天降る神

・八代の天神(あまつかみ)の一柱で天降る神。

【甕の章/櫛御気野命】で前述したように「ミケ」は「(ミカ)」と同義で流星の意。

 

その他の神

・速甕之多気佐波夜遅奴美神(ハヤミカノタケサハヤヂヌミ)

・天之甕主神(アマノミカヌシ)

・甕主日子神(ミカヌシヒコ)

・系譜以外の記述がないため流星の神であるかは不明。

・「速」「(ミカ)」がいずれも系譜上に現れており流星の神である可能性は高い。