流星と昴の日本神話
石の章

まとめ

 

本章で示してきたように神名に「イシ」「イワ」や、その変化の「イサ」「シ」「ハ」が付く神は、次の図のような構成となっている。流星の神や、流星に由来している可能性がある天降る神、その近親が多くを占めている(23例中18例、約78%)。

このように多くの例があることから単なる偶然とは考えにくい。つまりこれら流星の神や天降る神、その近親の神名に付く「イシ」「イワ」は、本章冒頭で述べたように「星」(語源は火石(ほいし))を「石」「磐」に見立てたものと考えられる。

 

神名に「イシ」「イワ」またはその変化が付く神
神名に「イシ」「イワ」またはその変化が付く神

石凝姥命イシコリドメ)……(すばる)と流星の神

・天岩戸隠れの神話に登場するので「天岩戸=(すばる)」の神。

序文で述べた流星の神・火瓊瓊杵(ホノニニギ)尊と共に天降るので同じく流星の神。

・神名は「星の密集の女神」つまり「(すばる)の女神」と解釈できる。

 

有功之神イサオノカミ、イサオシノカミ)……流星の神

五十猛(イタケル)神の別名。【速の章/速素戔嗚尊】で前述した流星の神・素戔嗚(スサノオ)尊の子。

・流星の神・素戔嗚(スサノオ)尊と共に天降るので同じく流星の神。

 

伊佐布魂命イサフタマ)……天降る神

【玉の章/伊佐布魂命】で前述した天降る神。

・神名は「星()る星の神」つまりは「(すばる)の神」の意と考えられるので、【速の章/速秋津日命】で前述した「(すばる)と流星の神」と推定。

 

天饒石国饒石天津彦火瓊瓊杵尊(アメニギクニニギアマツヒコホノニニギ)……流星の神

火瓊瓊杵(ホノニニギ)尊の別名。序文で述べた流星の神。

・神名に星を意味する「()」と「()」が含まれている。

 

胆杵磯丹杵穂命(イキニギホ)……流星の神

【火の章/胆杵磯丹杵穂命】で前述したように饒速日(ニギハヤヒ)命の別名。

【速の章/饒速日命】で前述した流星の神。

・神名に星を意味する「ホ」と「シ」が含まれている。

 

伊岐志邇保命(イキニホ)……天降る神

【火の章/伊岐志邇保命】で前述した天降る神。

・神名に星を意味する「ホ」と「シ」が含まれている。

 

伊毘志都幣命(イヒツベ)……流星の神

・天降る神、隕石と共に天降る神であり、つまり流星(隕石)の神。

 

五百箇磐石(イオツイワムラ)……(すばる)と流星の神

【速の章/熯速日神】で前述したように「五百箇磐石(いおついわむら)湯津石村(ゆついわむら))=(すばる)」。

・速星神社、星宮神社、星神社で(まつ)られている。速星は速い星である流星の意。

五百筒磐石(いおついわむら)神を(まつ)る愛媛県今治市大西町星浦(いまばりしおおにしちょうほしのうら)の星神社は隕石を(まつ)っている。

・つまり五百箇磐石(いおついわむら)【速の章/速秋津日命】で前述した「(すばる)と流星の神」。

 

磐裂神イワサク)……流星の神

・「五百箇磐石(いおついわむら)湯津石村(ゆついわむら))=(すばる)」から生まれている。

・「流星は(すばる)から来る」ので、つまり流星の神。

・星宮神社百三十社以上で(まつ)られている。

 

磐筒男神イワツツノオ)……流星の神

磐筒女神イワツツノメ)……流星の神

・「五百箇磐石(いおついわむら)湯津石村(ゆついわむら))=(すばる)」から生まれている。

・「流星は(すばる)から来る」ので、つまり流星の神。

・星宮神社、速星神社で(まつ)られている。速星は速い星である流星の意。

 

斎主神イワイヌシ)……流星の神

経津主(フツヌシ)神の別名。斎主(イハヒヌシ)神(伊波比主(イハヒヌシ)命、イハヒヌシ)は「星の神」の意。

・「五百箇磐石(いおついわむら)湯津石村(ゆついわむら))=(すばる)」から生まれている。

・「流星は(すばる)から来る」ので、つまり流星の神。天降る神である点からも裏付けられる。

・星宮神社四十社以上で(まつ)られている。

 

鳥磐櫲樟船(トリノイワクスフネ)……流星の神

【櫛の章/鳥磐櫲樟船】で前述した流星の神。

 

天石門別神(アマノイワトワケ)……(すばる)と流星の神

【櫛の章/櫛石窓神】で前述した「(すばる)と流星の神」。

 

磐排別之子イワオシワクノコ)……流星の神

【火の章/豊御富】で前述した流星の神・井光(イヒカ)と同じく神武(じんむ)天皇が吉野で会った尾がある神。つまり井光(イヒカ)と同じく流星の神。

 

磐余彦尊イワレヒコ)……流星の神の曽孫

・神武天皇の別名。序文で述べた流星の神・火瓊瓊杵(ホノニニギ)尊の曽孫。

・別名の若御毛沼(ワカミケヌ)命は「若い流星の神」、豊御毛沼(トヨミケヌ)命は「豊かな流星の神」の意。

磐余(いわれ)石村(いわれ)湯津石村(ゆついわむら)(すばる)、いはれ=磐生(いはあ)れ=流星が生まれる場所=(すばる)の意。

【速の章/速秋津日命】で前述した「(すばる)の神=流星の神」という考え方が表れている。

 

長白羽神(ナガシラ)……(すばる)と流星の神

・天岩戸隠れの神話に登場するので「天岩戸=(すばる)」の神。

序文で述べた流星の神・火瓊瓊杵(ホノニニギ)尊と共に天降るので同じく流星の神。

・神名は「長く白い星の神」つまり「流星の神」の意。白羽は白い衣服の意ではない。

 

建葉槌命(タケヅチ)……(すばる)と流星の神

・天岩戸隠れの神話に登場するので「天岩戸=(すばる)」の神。

序文で述べた流星の神・火瓊瓊杵(ホノニニギ)尊と共に天降るので同じく流星の神。

香香背男(カカセオ)天背男(アマノセオ)命)が建葉槌(タケハヅチ)命に服従したのは近縁の神であるため。

 

その他の神

・石土毘古神(イワツチビコ)

・石巣比売神(イワスヒメ)

・系譜以外の記述がないため流星の神であるかは不明。

・磐土命(イワツチ)

磐土(イワツチ)命の「イワ」は表筒男(ウワツツノオ)命の「ウワ」の変化であり「星」ではない。

・磐長姫(イワナガヒメ)

磐長姫(イワナガヒメ)の「磐」はバナナ型神話における長命の象徴であり「星」ではない。

・長道磐神(ナガチ

・この神に関する神話上の記述が乏しいため流星の神であるかは不明。